僕があっという間に大人になった間、
彼も同様に歳をとっていました。

別れは必ず訪れるものです。

それは解っていたことだし

親の死に目にも会えずとも
誇り高く仕事を全うする人が多いのも知っています。

そんな人達に比べたら
僕なんか甘っちょろい味噌っカスなのは解ってますが…。

だけどもっと一緒にいたかった。

最期の瞬間は傍にいたかった。

他の友人たちが「金の切れ目が縁の切れ目」と去っていく中
彼だけはいつだって僕の味方だったのです。

他人に迷惑かけてでも仕事を抜け出して家に駆け戻ればよかったか?

僕が生まれながらの天才でお金に困ってなければ最期まで一緒にいれたかな?

色々な想像と妄想、後悔、罪悪感が頭の隅々まで駆け巡りました。

これから先、親、家族、恋人。
たくさんの人との別れが待っています。

大切な人とあとどれくらい一緒に過ごせるのだろう?

僕はあとどのくらい
大切な人を後回しにしなくてはいけないのだろう?

それを深く考えた時。

僕の中にはもう

本気で自由を目指す

という選択肢しか存在しなくなっていました。

そして藁にもすがる思いでインターネットで方法を探し
僕は今行っているアフィリエイトという仕事
…つまりはネットビジネスに出会いました。

まぁ、胡散臭かったです(笑)
アフィリエイターと呼ばれる人達に嫌悪感すら抱きました。

しかし、このままこの世界で生き続ける事は僕にとって終身刑でしたし

溺れる者は、ただ沈んで死ぬか
藁でも掴んで生きようとするかしかできません。

「就職を放棄してまでそんな事をして…将来不安じゃないの?」

というような事も言われましたが
僕にとっては「就職すること」の方が将来不安だったのです。

僕はアフィリエイトという藁を掴みました。

『才能がないから…』とか『資金が無いから…』とか
そんなことを考えている余裕もありませんでした。

このまま生きてても死が待ってるだけだからです。

とりあえず教材を買って手順通りに実践する事にしたのですが
初めてみる文字の羅列はスパイの暗号のように解読不能です。

とにかく「自由になりたい」一心でパソコンに向かい続け
一日の睡眠時間は1時間ほどになってしまっていました。

しかし眠さを忘れるほどに毎日毎日、
パソコンのキーボードを叩きつづけました。

アフィリエイトの実践を始めてから数週間後。

僕はその時ベッドで横になりながら
無実の罪で服役中の男が脱獄を図るという
アメリカのドキュメンタリー番組を見ていました。
(世界丸見えだか、アンビリバボーだか)

携帯にメールが来ていた事に気づいてはいましたが
TVがCMになるまで待ってから画面を確認しました。

9000円の報酬が発生した事を通知するメールでした。

その金額は普段僕が

時間と命と尊厳と存在をすり減らしながら
泣くような思いで一日店舗に拘束されてやっと稼ぎ出せる額に等しいお金です。

携帯画面を開いたまま小刻みに震える僕の後ろで
TVの中の男は見事に脱獄を果たし自由になっていました。

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